経験し、学ぶこと。それは一流への入口である。ただし、そこにたどり着く経路は波乱や苦難に満ちているのが当然。おまけに、必ずしも一枚扉である保証もない。だが、大切なのはそこで得る体験そのものだ。
「私が20代で事業を始めた頃は、外食産業というのが世に認められづらかった時代で、『居酒屋をやりたい』などと言っても、資金を貸してもらえないような状況でした。それでもやっとオープンさせた飲食店も、客足が伸びずに失敗したり。でも不思議なことに、それを苦難と感じている暇はなかった。ただがむしゃらに前へ進むことが、楽しくも感じていました。人間、本当にがむしゃらでいられる時って、苦労なんて感じないんですよ」
他の若者と同じように、趣味や遊びに興じたいという意識はほぼ皆無。そうまでして経営に執心した原動力は、「思い込み」だと語る。
「若かったですからね。俺は絶対に天下を取るぞ、なんて考えていました(笑)。がむしゃらに走りながらも、30代になると、信長じゃあるまいし天下を取ったってしょうがないな、などと考え始めるんです。それよりも、世のため人のために、多くの〝ありがとう.を集める会社にしたいな、と」
日本一の外食産業を築き上げよう、創業10年で会社を上場させよう、という野心にも似たモチベーションに突き動かされた20代。今でこそ、当時の鼻息を若気の至りと自嘲する渡邉氏だが、疾走し、壁に衝突し、乗り越えてきた経験は何物にも代えがたい財産になっている。
外食産業とは、安全な食材、ひいては環境によって支えられている。このジャンルを真摯に突き詰めたからこそ、今日の事業の一角でもある環境事業にも行き当たった。
さらに、外食産業を軌道に乗せた時点で、「このノウハウを他のジャンルでも活用すれば、もっともっとたくさんの『ありがとう』を集めることができるはずだ」との着想にも至る。
「国内でたくさんの『ありがとう』が集まったら、今度は自然と海外にも目が向きました。現在、飲食だけでなく、介護事業の海外展開も準備しています。つまり、目の前のことをがむしゃらに頑張ってブレイクすると、必ず"次"が見えてくる。その繰り返しなんですよ」
そして、文字通り疾走するようなアップテンポな語り口から、最後に飛び出したメッセージがまた、最高にふるっているのだ。
「私の今日までの人生の中で、休んだり怠けたりした時間というのは1秒もありません。時間は有限なもの。人間は日々、刻一刻と死に向かっているわけですから、無駄に時間を使えません。休むのは死んでからでいいですよ」
――どうだろう? 今がまだ20代であることが、他のどんなものよりも優れた資質であると気付かされはしまいか。
芽吹く準備は、誰しも万全なはずだ。
1959年生まれ。大学卒業後、経営コンサルタント会社で経理を学んだ後、佐川急便で独立資金を貯め、1984年有限会社渡美商事設立。1987年に「ワタミ」を創業。2000年東証1部上場。個人では学校、病院、NPO法人「スクール・エイド・ジャパン」の理事長として活動している
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